伐木作業

特殊伐採の地上作業の危険|高速道路のトンネル上でロープを引いて分かった注意点

特殊伐採の地上作業の危険|高速道路のトンネル上でロープを引いて分かった注意点

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。

最近、特殊伐採の手伝いに行っています。現場は高速道路のトンネルの入口付近の斜面の上で、下のトンネルには普通に車が走っています。高速道路なので交通規制はありません。木に登った人が上から少しずつ切り、地上の私がロープでその枝や幹を下ろす係です。

正直に言うと、どの場面も危ないと感じます。そのなかで、地上でロープを引く側が気をつけることを先にまとめます。

地上でロープを引く係が気をつけること

  1. 下ろす前に、器具にかかっているロープの巻きを毎回目で確認する。 巻き数が足りているか、ロープ同士が重なったりねじれたりしていないかを見ます。私も一度、巻きが器具から外れて焦ったことがあります。
  2. ロープを手や腕、体に巻きつけない。 切った材の重さが一気にかかったとき、巻きつけていると体ごと持っていかれます。
  3. 自分の立ち位置の後ろと足元を確かめておく。 引っ張られてよろけたときに、斜面の下や崖、溝に落ちない場所に立ちます。
  4. 材が落ちてくる真下と、ロープが張る線の上に立たない。 ロープは材の重さで急に張ります。張ったときにロープが通る位置に体を置かないようにします。
  5. 木の上の人の合図があるまで、ロープをゆるめない。 「下ろすよ」に「はい」と声で返してから動きます。聞こえなかったら、聞き返します。
  6. ロープを扱うときは手袋をする。 ロープが手の中を滑ると、摩擦でやけどをします。

この中で、手伝いの立場でも自分で守れるのは1と3です。巻きの確認と立ち位置は、親方や木の上の人に言われなくても毎回できます。

山の伐採と違うのは「倒す方向を選べない」こと

普段の伐採では、受け口(倒したい方向に入れる切り込み)を入れて、木を倒す方向をこちらで決めます。倒す方向が決まっていれば、反対側に逃げればいい、という考え方ができます。

特殊伐採は、それができない場所でやる伐採です。家や電線、道路のすぐそばなど、木をそのまま倒すと何かに当たる場所で、上から少しずつ切っては吊り下ろしていきます。私の現場の場合、木の下は高速道路です。切った材が落ちていい方向はありません。

そのため、材をどこに下ろすかを決めているのは、地上で引いているロープです。ロープがゆるんだり、巻きが外れたりすれば、材はそのまま落ちます。普段の伐採なら「離れて見ている」立場でも、特殊伐採では地上の人の手元が、材を止める最後の役目になっています。手伝いでも責任が軽くないのはこのためです。

巻きが器具から外れたときのこと

私の現場では、ロープを地上の器具に何回か巻きつけ、その摩擦でブレーキをかけながら材を下ろしています。巻き数を増やすほどロープは滑りにくくなり、減らすほど材が速く下ります。

一度、その巻きが器具から外れて焦ったことがあります。巻きが外れると、ブレーキがほとんどかからなくなります。そうなってから素手でロープを握って止めようとしても、材の重さには勝てませんし、手がロープでこすれてやけどをします。

外れてからできることはほとんどありません。材を切る合図が来る前に、巻きがきちんと器具に収まっているかを確認するほうが確実です。巻き数や、外れたときにどうするかは、作業の前に木の上の人と決めておいてください。

海外では、地上の2人が持ち上げられた死亡事故がある

アメリカのワシントン州が公表している死亡事故の報告書(2023年)に、地上でロープを持っていた人が亡くなった事例があります。

報告書は、地上の作業者がこの材を制御できなかった原因として、ロープの組み方と材の重さを挙げています。

この事例で地上の人が落ちたのは、材の下ではなく、自分が立っていた後ろの斜面です。注意点の3番に「後ろと足元」を入れているのはそのためです。私が入っているトンネルの上の現場も斜面です。引っ張られた先に何があるかは、立つ前に一度振り返って確かめておくべきだと、この報告書を読んで思いました。

また、30cm落ちただけで大人2人が持ち上げられた、という点も覚えておきたいところです。材が少しでも落ちてからロープが張ると、ロープにかかる力は材の重さより大きくなります。2025年にチェコの研究者が発表した研究でも、吊り下ろしでロープにかかる衝撃を小さくするには、材を軽くすること、落ちる距離を短くすることなどが効くとしています。材の大きさや切り方を決めるのは木の上の人ですが、地上の人も「今の材は重そうだ」と感じたら、巻き数を足すよう声をかけていいと思います。

ロープを扱うときの手袋

ロープ作業の手袋は、手のひらが革で補強されているものが向いています。薄い軍手だと、ロープが滑ったときの摩擦の熱が手に伝わりやすくなります。

クライミングやロープ作業でよく使われる定番に、ペツルのコーデックスがあります。手のひらと指の部分が革で、ロープを繰り出す作業向けに作られています。

ただし、手袋をしていても、巻きが外れた材のロープを握って止めることはできません。手袋はやけどを軽くするためのもので、ブレーキの代わりにはならないと考えてください。

声と合図を決めておく

木の上と地上は離れていて、チェーンソーの音もあるため、声が届きにくい場面があります。トンネルの入口付近だと、車の走る音も重なります。

作業の前に、次のことを決めておくと迷いが減ります。

合図の考え方は、普段の伐倒の声掛けと同じです。伐木作業の声掛けについての記事にまとめています。ロープに力がたまった状態で材に近づく危険は、集材で材が切り株に引っかかったときの記事にも書いています。ロープをかける木の根の強さについては、スギとヒノキの根の張り方の違いの記事で調べました。

特殊伐採の手伝いに入るときに確認すること

特殊伐採の技術を持っているのは木の上の人ですが、材を最後に止めているのは地上のロープです。手伝いで入る人も、自分の手元が何を支えているかを分かったうえで立ってください。


参考資料

この記事を書いた人

藤川翔(屋号:希翔)

九州南部で下刈り・植林を中心に造林作業に従事。最近は特殊伐採の手伝いに入り、地上でロープを引く係を担当している。木に登って切る側の技術は持っていないため、本記事は地上側から見た体験と、公開されている事故報告書・研究資料をもとに書いている。

この記事の裏話や、体験の背景はnote(山守ラボ)でも綴っています。