悪天候

林業の雨の日は何をしているのか。造林の個人事業主にとっては「休み」ではない

林業の雨の日は何をしているのか。造林の個人事業主にとっては「休み」ではない

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。

9月に入ってから、まともに現場へ出られた日が数えるほどしかない。今日も朝から土砂降りで、予報を見るかぎり午後も止まない。窓の外の雨を眺めながら、刈払機の笹刃(ささば)を平やすりで研いでいる。

林業をやっていると言うと、「雨の日は休みでいいね」と返されることがある。気持ちはわかる。でも、少なくとも自分の場合はその感覚とだいぶ違う。私は造林──山に苗木を植えて、その周りの草を刈る下刈りが仕事の中心で、伐採はやらない。しかも会社員ではなく個人事業主だ。この二つが重なると、雨の日は「ありがたい休養日」ではなく「一日ぶん損をした日」になる。

その一日を少しでも取り返すために何をしているか、という話をしたい。

「雨で休み」の中身は、人によってまるで違う

林業の求人サイトの解説を読むと、雨の日の過ごし方は事業体によってばらばらだと書かれている。事務作業に充てるところ、機械のメンテナンスや道具の整理に充てるところ、製材など屋根の下の仕事を手伝うところ。雨が続けば休みも続いて給料が減るので、日曜を出勤に振り替えて月の勤務日数を確保する事業体もあるという(RINDO、やまごんたの解説による)。

つまり「林業の雨の日」とひとくくりにはできない。雇われて月給をもらっている人なら、雨で作業がなくても給料は出る。製材部門がある会社なら、屋内の仕事に回れる。ところが自分のように造林専門の個人事業主だと、その逃げ道がない。植える現場も刈る現場も、全部が屋外だ。

小雨なら出る。土砂降りだけは出られない

誤解されがちだが、雨イコール中止ではない。小雨くらいなら、下刈りはむしろやりやすい。

以前濡れた萱のほうが刈りやすい話を書いたとおり、乾いてカンカンに硬くなった草より、雨や朝露で湿った草のほうが刃がすっと入る。体もそれほど暑くならない。だから小雨の日は、こっちとしてはむしろ「仕事日和」に近い。

出られないのは、土砂降りのときだ。理由は二つある。一つは道。山の現場までは細い林道を車で上がるが、大雨だと路肩がゆるんで崩れたり、沢の水があふれて道をふさいだりする。帰れなくなるのが一番こわい。もう一つは足元だ。急斜面で刈払機を振る仕事なので、土がぬかるんで滑る状態で回転する刃を持つのは、単純に危ない。

この線引きは、自分で決める。誰かに「今日は中止」と言ってもらえるわけではないぶん、行けるかどうかの判断も自分の責任になる。

雨の日にやる「本研ぎ」

現場に出られないと決めたら、まず刃を研ぐ。

笹刃──刈払機の先につける、笹や細い木も切れる硬めの刃──は、普段でも休憩のたびに研いでいる。切り株や石に一度当てるだけで切れ味が落ちるので、丸やすりでさっと当て直すのは作業の合間の習慣だ。

ただ、それはあくまで応急処置に近い。刃の角度をきちんと整え直したり、欠けた部分を削り落としたり、平やすりやグラインダーで本格的に研ぎ直す作業は、まとまった時間がないとできない。火花を飛ばしながら一枚ずつ角度を見て研いでいくと、あっという間に一時間、二時間が過ぎる。だからこの「本研ぎ」は、休みの日か、雨で現場が飛んだ日に回している。

休憩のたびに当てる丸やすりは、チェーンソーの目立て用として売られているものが使える(例:バローベ 丸ヤスリ 4.8mm 3本セット)。本研ぎで使っているグラインダーはマキタの9553Bだ。

研ぎ上がった刃で試し切りをすると、同じ草が別物みたいに軽く切れる。この状態を晴れの日にキープできれば、一日の作業がずいぶん楽になる。雨の日の研ぎは、次に山へ入る日の自分への仕送りみたいなものだ。

同じ「研ぐ」でも、笹刃と2枚刃ではかかる時間がだいぶ違う。刃の種類と使い分けにまとめたとおり、2枚刃はグラインダーで軽く研ぐか表裏を返すだけで済むので、個人的には一番メンテナンスが楽な刃だと思っている。

車も「会社の道具」だから手を入れる

もう一つ、雨の日にやるのが車の整備と掃除だ。

現場まで自分の車で入る以上、車は移動手段であると同時に仕事道具でもある。荷台にはチェーンソーや燃料、笹刃の替え、道具箱が積みっぱなしになる。泥とチェーンオイルと草の汁で、放っておくとすぐ汚れる。ここが止まったら、その日は現場にたどり着けない。

だから雨の日に、下回りの泥を落とし、オイルやタイヤを見て、車内の道具を積み直す。地味な作業だが、これをサボると忙しい時期に限って車がトラブルを起こす。

それでも、雨で飛ぶのは「困る」以外の何物でもない

こう書くと、雨の日をうまく活用しているように聞こえるかもしれない。正直に言えば、違う。

雨で一日飛ぶのは、はっきり困る。個人事業主だから、動けなければその日の収入はゼロだ。刈るべき現場の草は雨でもぐんぐん伸びるのに、工期だけが近づいてくる。研ぎも車の整備も大事な仕事だけれど、それで売上が立つわけではない。

雨の日の作業は、前に進むためのものじゃない。負けをできるだけ小さくして、晴れた日に一秒でも長く刈れる状態を作っておくための、守りの一日だ。

だから今日も、雨音を聞きながら火花を飛ばしている。「雨で休みでいいね」と言われたら、たぶん私はあいまいに笑って、「まあ、やることはいろいろあるんで」とだけ返す。その中身が、こういう一日だ。

刈払機のフィルターとプラグの掃除については、エンジンがかからないときの実例にまとめました。

雨の中で作業を続ける日の冷え対策は、雨の日の作業の寒さ対策にまとめました。

この記事を書いた人

藤川翔(屋号:希翔)

9月に入って雨で現場に出られない日が続いた2026年9月上旬、土砂降りで下刈りが中止になった日に書いた。九州南部で造林(植林・下刈り)を専門にしている個人事業主としての、雨の日の過ごし方の話。

この記事の裏話や、体験の背景はnote(山守ラボ)でも綴っています。