伐木作業

スギとヒノキの根の張り方の違い|「スギは引っ張ると倒れやすい」は本当か調べた

スギとヒノキの根の張り方の違い|「スギは引っ張ると倒れやすい」は本当か調べた

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。

特殊伐採の手伝いで、ヒノキにロープをかけたときに「ヒノキは根を横に伸ばすから倒れにくくて丈夫。スギは根が張ってないから、引っ張ると倒れやすい」と聞きました。たしかに山ではスギの倒木をよく見かけます。本当なのか、研究機関の資料で確かめてみました。

結論:半分は合っていて、半分は違いました

ロープをかける木を選ぶときは、「ヒノキだから大丈夫」「スギだから危ない」で決めずに、根元の土と根の状態を見るほうが確実です。

ヒノキの根は浅く、横に広がる

岐阜大学の小見山章さんの研究では、ヒノキ林でヒノキの根を掘り出して、どの深さに根があるかを調べています。結果は「浅根」、つまり根の多くが地面に近い浅いところに集まっていました。

根が浅いところに集まる分、横に広がって木を支える形になります。現場の人が「ヒノキは根を横に伸ばす」と言うのは、研究の結果とも合っています。

スギの根は、むしろ深い方

一方で、「スギは根が張ってない」は資料と合いませんでした。

森林総合研究所が2026年4月に発表した研究では、全国829か所の森林の土の調査記録から、根がどの深さまであるかを調べています。主な樹種で比べると、スギの根は比較的深いところまで分布していました。

つまり、スギは根を下に伸ばし、ヒノキは横に広げる、という違いです。根の量が少ないのではなく、伸ばす方向が違う、と考えるほうが実態に近いようです。

根1本の強さは、スギとヒノキでほぼ同じ

林野庁が2023年にまとめた根の働きについての報告書に、根を1本ずつ土から引き抜いて、どれだけの力に耐えるかを測った結果が載っています(長野県での試験)。

太さ10mmの根を引き抜くのに必要な力は、次のとおりです。

樹種 引き抜くのに必要な力
スギ 700〜1,300N(約70〜130kg分)
ヒノキ 800〜1,100N(約80〜110kg分)
アカマツ 500N程度
カラマツ 400N程度
ケヤキ 2,500N程度

スギとヒノキの幅はほとんど重なっています。根1本で比べるかぎり、どちらかが特別に弱いということはありません。

同じ報告書では、2017年の九州北部豪雨で崩れた山を調べた研究も紹介されていて、スギ林とヒノキ林で崩れ方の傾向に大きな違いはなかったとしています。山の斜面を根で支える力という点でも、樹種の差は小さいということです。

倒れやすさを左右するのは「土の水分」と「太さ」

同じ報告書のヒノキの試験では、土が水を含んで飽和した状態だと、普段の状態より同じ太さの根が約3割少ない力で抜けました。

長野県林業総合センターが2007年の台風9号の風倒被害を調べた報告でも、倒れた木のほとんどが根ごとひっくり返る「根返り」でした。原因は、先に降った大雨で土が柔らかくなり、根が木を支えられなくなったところに強風が来たため、と分析しています。被害が目立ったのは、水がたまりやすい平らな場所や、石が多くて根が育ちにくい場所でした。

木の太さも大きく効きます。木を引き倒すのに必要な力の研究では、根返りへの抵抗は針葉樹の場合、胸の高さの直径のほぼ3乗に比例するとされています。直径が2倍になれば、抵抗はおよそ8倍です。

現場に置き換えると、同じスギでも「太くて、乾いた尾根に立っている木」と「細くて、水がしみ出す谷の木」では、引っ張ったときの強さがまったく違う、ということです。

スギの倒木をよく見かけるのはなぜか

根が浅くないのに、スギの倒木が目立つのには、いくつか理由が考えられます。ここは資料からの推測も含みます。

「スギは根が張ってないから倒れる」というより、「スギは倒れやすい場所に植わっていることが多い」と考えるほうが、資料とは合っています。

ロープをかける木を選ぶときに見ること

特殊伐採では、切る木とは別の木にロープや滑車をかけて、そこを支えにすることがあります。その木が引っ張られて倒れたり、根が浮いたりすれば、材もロープも制御できなくなります。

資料を読んだうえで、私が支えにする木を見るときに気をつけたいと思ったのは次の点です。

  1. 根元の土が濡れていないか。 雨のあとや、水がしみ出している場所の木は、根が抜けやすくなっています。
  2. 根元が浮いていないか、地面にひびが入っていないか。 千葉の調査では、倒れなかった木にも、風で揺さぶられて根元が浮いているものが多く見つかっています。一度揺さぶられた木は、見た目より弱っていることがあります。
  3. 幹に腐れや溝がないか。 根が丈夫でも、幹が腐っていればそこで折れます。
  4. 十分に太いか。 太さは抵抗に3乗で効くので、迷ったら太い方を選びます。

どの木を支えにするかを最終的に決めるのは、木の上の人や親方です。手伝いの立場でも、根元が浮いている、土がぐしょぐしょだ、と気づいたら伝えておくと判断の材料になります。

特殊伐採の地上作業の注意点は、地上でロープを引く係の危険についての記事にまとめています。ロープに力がかかった状態の怖さは、集材で材が切り株に引っかかったときの記事にも書いています。

まとめ

現場で聞く話には、見た目の経験から来ている分、半分当たっているものが多いと感じます。気になった話は、こうして一度確かめておくと、次に誰かに説明するときにも役に立ちます。


参考資料

この記事を書いた人

藤川翔(屋号:希翔)

九州南部で下刈り・植林を中心に造林作業に従事。最近は特殊伐採の手伝いに入り、地上でロープを引く係を担当している。本記事は現場で聞いた話を、森林総合研究所・林野庁などの公開資料で確かめたもの。

この記事の裏話や、体験の背景はnote(山守ラボ)でも綴っています。