スギとヒノキの根の張り方の違い|「スギは引っ張ると倒れやすい」は本当か調べた

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。
特殊伐採の手伝いで、ヒノキにロープをかけたときに「ヒノキは根を横に伸ばすから倒れにくくて丈夫。スギは根が張ってないから、引っ張ると倒れやすい」と聞きました。たしかに山ではスギの倒木をよく見かけます。本当なのか、研究機関の資料で確かめてみました。
結論:半分は合っていて、半分は違いました
- ヒノキの根は浅く、横に広がる。 これは研究でも確かめられていて、聞いた話のとおりです。
- スギの根は「張っていない」わけではない。 全国の調査では、スギの根はむしろ深いところまで伸びる方だと分かっています。
- 根1本あたりの抜けにくさは、スギとヒノキでほぼ同じ。 太さ10mmの根で比べると、スギが700〜1,300N、ヒノキが800〜1,100Nです。
- 倒れやすさを大きく左右するのは、木の種類より「土の水分」と「木の太さ」。 雨を含んで柔らかくなった土では、同じ根でも抜けやすくなります。
ロープをかける木を選ぶときは、「ヒノキだから大丈夫」「スギだから危ない」で決めずに、根元の土と根の状態を見るほうが確実です。
ヒノキの根は浅く、横に広がる
岐阜大学の小見山章さんの研究では、ヒノキ林でヒノキの根を掘り出して、どの深さに根があるかを調べています。結果は「浅根」、つまり根の多くが地面に近い浅いところに集まっていました。
根が浅いところに集まる分、横に広がって木を支える形になります。現場の人が「ヒノキは根を横に伸ばす」と言うのは、研究の結果とも合っています。
スギの根は、むしろ深い方
一方で、「スギは根が張ってない」は資料と合いませんでした。
森林総合研究所が2026年4月に発表した研究では、全国829か所の森林の土の調査記録から、根がどの深さまであるかを調べています。主な樹種で比べると、スギの根は比較的深いところまで分布していました。
つまり、スギは根を下に伸ばし、ヒノキは横に広げる、という違いです。根の量が少ないのではなく、伸ばす方向が違う、と考えるほうが実態に近いようです。
根1本の強さは、スギとヒノキでほぼ同じ
林野庁が2023年にまとめた根の働きについての報告書に、根を1本ずつ土から引き抜いて、どれだけの力に耐えるかを測った結果が載っています(長野県での試験)。
太さ10mmの根を引き抜くのに必要な力は、次のとおりです。
| 樹種 | 引き抜くのに必要な力 |
|---|---|
| スギ | 700〜1,300N(約70〜130kg分) |
| ヒノキ | 800〜1,100N(約80〜110kg分) |
| アカマツ | 500N程度 |
| カラマツ | 400N程度 |
| ケヤキ | 2,500N程度 |
スギとヒノキの幅はほとんど重なっています。根1本で比べるかぎり、どちらかが特別に弱いということはありません。
同じ報告書では、2017年の九州北部豪雨で崩れた山を調べた研究も紹介されていて、スギ林とヒノキ林で崩れ方の傾向に大きな違いはなかったとしています。山の斜面を根で支える力という点でも、樹種の差は小さいということです。
倒れやすさを左右するのは「土の水分」と「太さ」
同じ報告書のヒノキの試験では、土が水を含んで飽和した状態だと、普段の状態より同じ太さの根が約3割少ない力で抜けました。
長野県林業総合センターが2007年の台風9号の風倒被害を調べた報告でも、倒れた木のほとんどが根ごとひっくり返る「根返り」でした。原因は、先に降った大雨で土が柔らかくなり、根が木を支えられなくなったところに強風が来たため、と分析しています。被害が目立ったのは、水がたまりやすい平らな場所や、石が多くて根が育ちにくい場所でした。
木の太さも大きく効きます。木を引き倒すのに必要な力の研究では、根返りへの抵抗は針葉樹の場合、胸の高さの直径のほぼ3乗に比例するとされています。直径が2倍になれば、抵抗はおよそ8倍です。
現場に置き換えると、同じスギでも「太くて、乾いた尾根に立っている木」と「細くて、水がしみ出す谷の木」では、引っ張ったときの強さがまったく違う、ということです。
スギの倒木をよく見かけるのはなぜか
根が浅くないのに、スギの倒木が目立つのには、いくつか理由が考えられます。ここは資料からの推測も含みます。
- スギは水分の多い場所に植えられる。 スギは湿った土を好むので、谷や斜面の下の方に植えるのが基本です。そういう場所は大雨のあと土が柔らかくなりやすく、根返りが起きやすい条件と重なります。
- 病気で幹が折れることがある。 2019年の台風15号で千葉県の被害を調べた林野庁の緊急調査では、スギが「溝腐病(みぞぐされびょう)」という幹が腐る病気にかかっていて、腐った場所で折れている例が多く見つかっています。これは根ではなく幹の問題です。
- そもそもスギが多い。 日本の人工林で一番多く植えられているのはスギなので、倒れている木もスギに当たりやすくなります。
「スギは根が張ってないから倒れる」というより、「スギは倒れやすい場所に植わっていることが多い」と考えるほうが、資料とは合っています。
ロープをかける木を選ぶときに見ること
特殊伐採では、切る木とは別の木にロープや滑車をかけて、そこを支えにすることがあります。その木が引っ張られて倒れたり、根が浮いたりすれば、材もロープも制御できなくなります。
資料を読んだうえで、私が支えにする木を見るときに気をつけたいと思ったのは次の点です。
- 根元の土が濡れていないか。 雨のあとや、水がしみ出している場所の木は、根が抜けやすくなっています。
- 根元が浮いていないか、地面にひびが入っていないか。 千葉の調査では、倒れなかった木にも、風で揺さぶられて根元が浮いているものが多く見つかっています。一度揺さぶられた木は、見た目より弱っていることがあります。
- 幹に腐れや溝がないか。 根が丈夫でも、幹が腐っていればそこで折れます。
- 十分に太いか。 太さは抵抗に3乗で効くので、迷ったら太い方を選びます。
どの木を支えにするかを最終的に決めるのは、木の上の人や親方です。手伝いの立場でも、根元が浮いている、土がぐしょぐしょだ、と気づいたら伝えておくと判断の材料になります。
特殊伐採の地上作業の注意点は、地上でロープを引く係の危険についての記事にまとめています。ロープに力がかかった状態の怖さは、集材で材が切り株に引っかかったときの記事にも書いています。
まとめ
- ヒノキの根は浅く横に広がり、スギの根は深めに伸びる
- 根1本の強さは、スギとヒノキでほぼ同じ
- 倒れやすさは樹種より、土の水分・木の太さ・幹の傷みで決まる
- ロープをかける木は「何の木か」より「根元と土の状態」で選ぶ
現場で聞く話には、見た目の経験から来ている分、半分当たっているものが多いと感じます。気になった話は、こうして一度確かめておくと、次に誰かに説明するときにも役に立ちます。
参考資料