集材で材が切り株に引っかかったら|外しに近づいた人が1か月入院した話

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。
集材中に、ワイヤーで引っ張っていた材が切り株に引っかかって止まることがあります。そのとき一番危ないのは、「ちょっと外してくる」と材に近づく瞬間です。知り合いの林業従事者から聞いた現場では、引っかかった材を外しに行った人に、急に外れた材が勢いよくぶつかり、その人は1か月入院しました。
引っかかった材を外すときの手順
先に結論です。材が引っかかったら、次の順番で動いてください。
- ウインチを止め、オペレーターと「止めた」を声で確認する。 荷掛け側が合図するまで巻かない取り決めにしておきます。
- ワイヤーを少し繰り出して、張りを抜く。 ピンと張ったまま近づかないでください。引っかかった材には、ウインチが引いた分の力がたまっています。
- 材が外れたときに動く方向を予想し、その線上と斜面の下側に立たない。 ワイヤーが折れ曲がっている内側(内角側)にも入りません。
- できるだけ機械側で外す。 グラップルの位置を変えて引く方向をずらす、材の先端を浮かせて引き直す、といった方法です。手やバールで外すのは最後の手段にします。
- 人が外したあとは、全員が材の届かない場所まで下がったことを確認してから巻き始める。
なかでも大事なのは2と3です。引っかかった材は、外れた瞬間にたまった力で一気に動きます。人の足では、それをよけるのはまず無理です。
実際に起きたこと
聞いた話を、特定できない形で書きます。
- 伐採後、荷掛け場(材にワイヤーを掛ける場所)からグラップルについたウインチで材を引いていた
- 引っ張っていた材が切り株に引っかかって止まった
- それを外そうとして、1人が材に近づいた
- 材が急に外れ、その人に勢いよくぶつかった
- 1か月入院するけがだった。当たりどころがよかったので助かったが、悪ければ亡くなっていてもおかしくなかった
外しに行ったとき手で外そうとしたのか、そのときウインチが止まっていたのかまでは分かっていません。ただ、引っかかった材に人が近づき、外れた材がその人に向かって動いた、という流れははっきりしています。
公的な事故事例にも同じ形がある
兵庫労働局がまとめた林業の労働災害事例(令和2年)にも、よく似たケースが載っています。
道下でグラップルに乗って引き下げウインチ作業中、土の中にもぐってしまった木を荷掛け者が玉切りを実施して、再度ウインチで引っ張ったところ、急に負荷が取れたため集材しようとした木が滑ってきて、右足に当たった。(足首骨折、休業1か月以上3か月未満)
引っかかりの原因が切り株か土かという違いはありますが、「止まった材に人が手を入れる → 引き直す → 急に負荷が抜けて材が人のほうへ動く」という流れは同じです。手順の5番目を入れているのは、このパターンがあるからです。人が外し終えたあとに巻き直すときも、まだ危険は残っています。
集材中の死亡事故は少なくない
林野庁の資料によると、2024年の林業の死亡災害31人のうち、集材作業中が7人(23%)でした。伐木作業中の22人(71%)に次いで多い数字です。
林業の事故というと伐倒の話になりがちですが、伐ったあとの集材でも人は亡くなっています。伐倒が終わって気がゆるみやすい時間帯なので、集材は伐倒と同じくらい気を張る作業だと考えておいたほうがいいです。
2人以上で作業するときの決めごと
荷掛けをする人と機械を動かす人が別の場合は、作業前に次のことを決めておきます。
- 巻き始めの合図は荷掛け側が出す。 オペレーターの判断だけで巻かない
- 引っかかったら、まずオペレーターが巻くのを止める。 荷掛け側が近づくのは「止めた」の返事を聞いてから
- オペレーターから荷掛け側が見えない位置では巻かない。 見えないなら、声か笛で合図が届く位置まで移動する
合図の決め方は、伐倒のときの声掛けと同じ考え方です。詳しくは伐木作業の声掛けについての記事にまとめています。ロープに材の重さがかかる作業で地上側が気をつけることは、特殊伐採の地上作業の危険にも書きました。
明日の集材で意識すること
- 材が止まったら、まずウインチを止めて張りを抜く
- 材が外れたら動く線上と、斜面の下側に立たない
- 人が外したあとは、全員下がったのを確認してから巻く
「すぐ外れるだろう」と思って近づくのが、一番危ない場面です。引っかかったときこそ、一度手を止めてください。
参考資料