熱中症の労災が過去最多に。林業が『危険業種ランキング』に入らない理由

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。
熱中症の労災が「過去最多」だったと聞いて、真っ先にどの業種を思い浮かべるだろうか。建設現場のアスファルトの照り返し、警備員の炎天下での立哨——おそらく多くの人がそのあたりを想像するはずだ。
実際、厚生労働省が公表した令和7年(2025年)の確定値でも、死傷者数が多かった業種の上位は製造業・建設業・運送業・警備業だった。この中に「林業」は入っていない。
だが、この事実を「林業は比較的安全」と読むのは早計だ。むしろ、この数字の外し方にこそ、山で働く人が見落としやすい罠が隠れている。
過去最多なのに、死者が減っているという矛盾
厚生労働省の確定値によれば、令和7年の職場における熱中症による死傷者数(死亡・休業4日以上)は1,803人。前年から546人、率にして約43%増加し、統計を取り始めた2005年以降で最も多い数字になった。一方で、死亡者数は19人と、前年の31人から約39%減っている。
つまり「倒れる人は急増したが、死ぬ人は減った」ということだ。現場での応急対応や搬送体制が改善してきた成果とも読めるが、同時に「症状が出る手前まで、これだけの人数が追い込まれていた」という事実でもある。目の前がチカチカして、体が急に鉛のように重くなる、あの感覚を、去年より500人以上多く味わった人がいた、ということだ。
「林業がランキングに入らない」は良いニュースではない
業種別の死傷者数を見ると、製造業365人、建設業292人、運送業220人、警備業199人が上位を占める。林業はこの上位4業種には出てこない。
ここで数字のマジックに気づく必要がある。林業従事者の数そのものが少ないのだ。総務省の国勢調査によれば、日本の林業従事者数は令和2年時点で4万4千人。建設業の就業者数(500万人規模)と比べれば、桁が2つ以上違う。母数がこれだけ違えば、絶対数のランキングに出てこないのは当然のことで、「働く人一人あたりの危険度」が低いことの証明にはまったくならない。
林業が『危険業種ランキング』に入らないのは、安全だからではない。単に、統計に映る大きさを持っていないだけだ。
50代以上への集中は、林業の年齢構成と重なる
今回の統計でもうひとつ見逃せないのが年齢だ。死傷者全体のうち約52%、死亡者に限ると約84%を50歳代以上が占めている。
林業従事者の平均年齢はおよそ52歳といわれる(林野庁調べ)。つまり今回「最も危険」とされた年齢層は、林業の現場でごく普通に作業をしている年齢層と、そのまま重なる。統計の外側にいるつもりで、実は最も警戒すべき側にいる可能性がある。
発生時期は、まさに今
死傷者の約72%、死亡者の約79%が7月から8月に集中して発生している。今がまさにその期間の真っただ中だ。
背景には昨年(令和7年)の記録的な暑さがある。気象庁のデータでは、6〜8月の平均気温偏差が+2.36℃と、統計開始以来もっとも高かったという。今年の夏がそれを下回る保証はどこにもない。
今日、何を変えるか
冒頭の問いに戻る。「熱中症の労災で最も多い業種」を聞かれて林業を思い浮かべる人はまずいない。だがそれは、統計の外にいるからではなく、数え方の外にいるだけだ。
熱中症対策の基本(予防と応急処置)は、この母数の小ささを踏まえてもなお、実践する価値が下がるわけではない。むしろ「自分たちは対象外」という思い込みこそ、今回の統計が警告している落とし穴そのものだ。
一人での作業が多い現場では、緊急連絡体制の見直しも合わせて確認しておきたい。今日の休憩を、いつもより5分早く取ることから始めてみてほしい。
死傷者が過去最多になった裏側では、ファン付き作業服とスポーツドリンクを準備していたにもかかわらず亡くなった50代男性の事故も起きている。装備を整えることと、命が守られることは、必ずしもイコールではない。
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