マムシ

マムシ対策。林業の現場で見かける頻度と、実際に咬まれる確率は別の話

マムシ対策。林業の現場で見かける頻度と、実際に咬まれる確率は別の話

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。

刈払機を止めて水分補給をしようとしゃがんだ足元、枯れ草の中に模様のある太い体が見えた。マムシだった。動けずにいると、向こうから草の奥へと消えていった。

夏場、こういう場面は年に何度もある。だが不思議なことに、自分の周りで実際に咬まれたという話は一度も聞いたことがない。見かける頻度は高いのに、被害を聞く頻度は低い。この記事では、その差がなぜ生まれるのかを整理したうえで、予防策と、万一咬まれた場合に絶対にやってはいけないことをまとめる。

見かける頻度と咬まれる頻度は、なぜこんなに違うのか

環境省近畿地方環境事務所によれば、マムシは臆病な性質で、よほど接近されない限り自分から人に近づいて咬みつくことはない。攻撃性が高いのではなく、逃げ場を失って驚いたときに防御反応として咬むというのが実態だ。

これは現場の実感とも一致する。チェーンソーや刈払機の振動、地面を踏む足音は、マムシにとって「大きな何かが近づいてくる」という明確な合図になる。だから、こちらが気づく前に向こうが察知して離れていくケースがほとんどになる。つまり、山で見かけるマムシの多くは、すでにこちらに気づいて距離を取ろうとしている個体だということだ。

音や振動のない場面――しゃがんで作業する瞬間、落ち葉の下に無造作に手を入れる瞬間――こそが、本当に警戒すべきタイミングになる。

「遭遇は珍しくない」だけで、「咬傷が珍しい」わけではない

自分の体感だけで「マムシは大丈夫」と結論づけるのは早計だ。数字で確認しておく。日本救急医学会中部地方会誌に掲載された症例報告によれば、マムシ咬傷は日本国内で年間3000例程度発生しており、そのうち死亡例は年間5例程度、しかもその多くが70代以上の高齢者だと報告されている。

つまり、林業従事者一人が一生のうちに咬まれる確率は決して高くない。だが全国で見れば、毎年3000人が実際に咬まれているという事実は無視できない。「体力が落ちている状態での咬傷は重症化しやすい」という傾向は、暑さで消耗しやすい夏場の現場作業にもそのまま当てはまる。熱中症で体力を消耗した状態は、マムシ咬傷にとっても不利な条件になるということだ。遭遇が稀でないからこそ、油断していい理由にはならない。

藪に手を入れない、だけでは足りない予防策

マムシは落ち葉や土とよく似た体色をしており、環境省も「落ち葉の中や穴の中に不用意に手をつっこまないように」と注意を呼びかけている。だが林業の現場では、これだけでは足りない。

万一咬まれたら、良かれと思ってやることの方が危険

もし咬まれてしまったら、対処の方向性は「何をするか」より「何をしないか」の方が重要になる。傷口を切開して毒を吸い出す、きつく縛って毒の流れを止める、といった民間療法的な処置は、いずれも推奨されていない。伊勢崎市の公式資料でも、緊縛は脈が触れる程度の強さにとどめること、傷口は水道水で洗浄することが案内されている。切開は不潔な処置になりやすく、筋肉や神経を傷つける危険があり、強すぎる緊縛は組織の血流を止めて壊死につながりかねない。

心拍数が上がると毒の回りが早まるため、慌てて走ったり大声を出したりするのは逆効果になる。落ち着いて、傷口を心臓より低い位置に保ちながら、できるだけ早く——目安として1時間以内に——医療機関を受診することが、現場でできる最善の対応になる。

マムシに咬まれた場合の対処フロー図
咬まれた直後、まずやるべきこと

それでも、遭遇そのものを怖がりすぎなくていい

夏場のあの日、枯れ草の中に消えていったマムシは、こちらに気づいて先に逃げてくれた個体だった。本当に警戒すべきなのは、音も振動もなく、向こうがこちらに気づく前に手を伸ばしてしまう瞬間の方だ。

次にしゃがんで水分補給をするとき、その足元が藪や倒木のすぐ脇でないか、一度だけ確認してみてほしい。マムシを避けることは、実はそれだけで足りることが多い。

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この記事を書いた人

藤川翔(屋号:希翔)

夏場の現場では蛇をよく見かけるが、チェーンソーや刈払機の音・足音で逃げていくことがほとんど。自分自身も周囲でも、実際に咬まれた話は聞いたことがない。

この記事の裏話や、体験の背景はnote(山守ラボ)でも綴っています。