スズメバチ・アシナガバチに刺された症状は4段階。「軽い腫れ」で作業を続けた直後、河川敷で何が起きたか

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。
河川の護岸工事で、下刈り作業をしていた5人がいた。等間隔に横一列に並び、刈払機を動かしながら前へ進む。午前中に2人がアシナガバチに左手首を刺されたが、少し腫れる程度で、体に異常はなかったので作業を続けた。午後、3人目が同じように左手首を刺された。持っていたアンモニア水を塗っても痛みは引かず、5メートルほど離れた中洲で患部を冷やしていたところ、その場に突然倒れた。
厚生労働省岩手労働局の資料に記録されている、実際の労働災害だ。倒れた作業者は、5年前にも蜂に刺されて入院していた。つまり、最初の2人と同じ「少し腫れただけ」がどこまで安全のサインになるかは、刺された本人の体質と経過次第で大きく変わる、ということでもある。
なぜ同じ蜂に刺されて、平気な人と倒れる人がいるのか
同資料は、蜂に刺されたときの全身症状を軽症・中症・重症・重篤の4段階に分けている。
- 軽症:顔や体が飲酒時のように赤くなる、全身のかゆみ、だるさ、息苦しさ
- 中症:胸の苦しさ、口の渇きやしびれ、腹痛、吐き気、頭痛、めまい、全身のむくみ
- 重症:全身の力が抜ける、目が見えなくなる、耳が聞こえなくなる、意識が朦朧とする
- 重篤:手足の痙攣、尿や便を漏らす、意識喪失、血圧の低下、アナフィラキシーショック
冒頭の2人が「少し腫れる程度」で作業を続けられたのは、症状が局所にとどまり軽症の域を出なかったからだ。一方、3人目は最初こそ同じ手首の腫れだったが、そこから中症・重症を飛び越えるように悪化した可能性がある。腫れの大きさだけを見て「大丈夫か」を判断するのではなく、口の渇きやめまい、力の抜ける感覚といった、腫れとは別の症状が出ていないかを追いかける必要がある。
「顔や口を刺された」なら、腫れが小さくても身構えたほうがいい理由
同じ資料には、もう一つ見落としやすい記述がある。飲みかけのジュースやスポーツドリンクに蜂が寄ってきて、缶の中に潜り込み、気づかず口をつけて唇や口の中を刺されたケースがあるというものだ。
腕や脚の皮膚を刺された場合、腫れは体積の大きい組織の中で吸収される。ところが唇や口の中、喉の粘膜は組織が薄く、わずかな腫れでもすぐに気道の広さそのものを圧迫してしまう。同じ「軽症レベルの腫れ」でも、刺された場所が呼吸の通り道に近いかどうかで、危険度の意味合いがまったく変わってくる。現場での水分補給時に、ペットボトルの飲み口や作業着の襟元を軽く確認する一手間は、この一点だけでも価値がある。
「5年前に刺されて入院した」ことを、現場は知っていたか
先の労働災害の原因として、資料は「被災者が過去のハチ刺されで入院し、アレルギー症状を持っていたと分かっていたにもかかわらず、当該作業に従事した」ことを挙げている。既往歴そのものより、その情報が現場の判断に活かされなかったことが、直接の原因として名指しされている形だ。
蜂アレルギーの有無は、皮膚のスクラッチテストや血液検査(RAST法)で事前に調べられる。重篤な反応を起こすおそれがあると分かれば、医師の処方でエピペンを携行させることもできる。ただし、これらはすべて「本人が過去の被害を申告し、現場がそれを把握している」ことが前提になる。一人親方であれば自分自身がその情報を覚えておく必要があるし、雇用関係のある現場なら、朝礼や雇入れ時の会話の中で「前に刺されてどうだったか」を一度は聞いておく価値がある。
腫れの大きさより、経過を記録する
蜂に刺された直後にすべきことは刺された直後の応急処置で解説した通りだが、その後の数十分は「今どの段階にいるか」を意識して過ごしてほしい。腫れの大きさだけを基準にせず、口の渇き・めまい・力の抜ける感覚が新しく出ていないかを、時間を追って確認する。一人で作業しているなら、単独作業時の緊急連絡体制も合わせて見直しておくといい。その日の症状が軽症で収まっても、翌日以降に腫れが広がってくるケースもあるので、数日は経過を見ておくと安心だ。
冒頭の2人は「少し腫れただけ」で済んだ。3人目は同じ言葉から始まって、突然倒れた。その差を分けたのは腫れの大きさではなく、体質と経過だったということを、覚えておく価値はある。
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