熱中症対策をしていたのに死亡。ファン付き作業服とスポーツドリンクでも防げなかった39.6度

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。
2026年8月6日、島根県邑南町の山林。中国電力ネットワークの50代男性社員が、同僚3人とともに送電線鉄塔の下で看板の設置作業をしていた。作業時間は約1時間。終えて山を下り始めた直後、男性の意識がなくなった。同僚がすぐに119番通報したが、搬送先の病院で男性の死亡が確認されたのは、その日の夕方だった。
男性はファン付きの作業服を着用し、スポーツドリンクとシャーベット状の飲料をクーラーボックスに入れて持参していたという。装備をしていなかったわけではない。それでも、命を守ることはできなかった。
なぜ「対策していたのに」防げなかったのか
その日、島根県大田市では最高気温39.6度を記録した。観測史上最も高い数字で、この日全国で最も暑かった地点だったという。
ファン付き作業服は、送風によって汗を効率よく気化させ、体感温度を下げる効果がある。スポーツドリンクは、汗で失われる水分と塩分を補える。どちらも、熱中症対策として広く知られている、まっとうな備えだ。
だが39.6度という数字の前では、その「まっとうな備え」が力を失う場面があるということを、この事故は示している。ファンが送り込む風も、気温そのものが体温に近づけば近づくほど、冷却効果は薄れていく。スポーツドリンクを持っていたことと、実際にそれを飲むタイミングを逃さなかったかは、別の問題でもある。装備は熱中症を「起きにくくする」道具であって、「絶対に起きない」保証をくれる道具ではない。
「下山中」に倒れたという事実が、一番引っかかる
この事故で見過ごせないのは、倒れたのが作業の最中ではなく、作業を終えて山を下り始めた直後だったという点だ。
熱中症の症状は、体に負荷がかかっている最中よりも、動きが緩んだ瞬間に表面化することがある。作業中は「終わらせなければ」という意識が体を支えていても、それが緩んだ途端、蓄積していた疲労と体温の負荷が一気に表に出てくる。下山という、傾斜のある道を歩く行為自体も、平地の移動より体への負担が大きい。「作業さえ終われば一安心」ではなく、現場を離れる瞬間こそ体調の変化に注意が必要だということを、この事故は教えている。
熱中症対策の基本で触れた、休憩時に首元を冷やす・水分をこまめに取るという対策は、作業中だけでなく、作業を終えて山を下りる場面でも続ける必要がある。
装備より先に、休憩の「時間」を区切る
この事故のあと、中国電力ネットワークは「原因の究明と再発防止に努める」とコメントしている。個々の装備を見直す前に、まず疑うべきなのは、休憩や作業の区切り方そのものかもしれない。
令和7年の熱中症労災が過去最多だった統計でも触れたとおり、死傷者の年齢層は50代以上に集中しており、今回の事故の年齢層とも重なる。体力の低下を自覚しにくい年代ほど、「まだ大丈夫」という感覚に頼らず、時間で区切った休憩を機械的に取ることが有効だ。熱中症対策の義務化で解説したWBGT基準(28度以上、または気温31度以上での連続1時間・1日4時間超の作業が対象)に照らせば、39.6度という気温はその基準を大きく超えている。今日の作業がその範囲に入っていないか、装備を確認する前に一度立ち止まって考える価値がある。
同僚と組んで作業していても、今回のように倒れる瞬間は誰にも予測できない。単独作業のリスク管理で書いた「気づいてくれる人がいるか」という問いは、一人親方に限った話ではなく、仲間がいる現場でも、山を下る隊列の中でふと意識を失う瞬間には同じ重みを持つ。
「持ってきているから大丈夫」を、今日は疑ってみる
ファン付き作業服も、スポーツドリンクも、間違った備えではない。むしろ、多くの現場ではまだ徹底できていない基本の対策だ。だからこそ、この事故が伝えているのは「対策を増やせ」ということではなく、「対策していることに安心しすぎるな」ということだと思う。
今日、装備を整えて山に入る前に、休憩を取る時刻をあらかじめ決めておいてほしい。「キリのいいところまで」ではなく、時計を見て機械的に区切る。それだけで、装備だけでは埋まらない隙間を、いくらか塞ぐことができる。
出典: 中電NWの男性社員死亡 島根県邑南で熱中症の疑い(中国新聞デジタル)、大田と鳥取で39.6度 島根、鳥取の観測史上最高気温 全国1番の暑さに(山陰中央新報デジタル)