スズメバチ

ツマアカスズメバチ、九州で拡大中。「スズメバチだと思ったら」正体は特定外来生物だった

ツマアカスズメバチ、九州で拡大中。「スズメバチだと思ったら」正体は特定外来生物だった

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。

枝打ちの手を止めて見上げた頭上、いつもの巣とどこか違う。丸みが少なく、表面がゴツゴツして、色も心なしか黒っぽい。「大きさは普通のスズメバチと変わらないのに、なんだか様子がおかしい」——そう感じたことのある人は、九州の山で作業しているなら一度は疑ってみてほしい。それはもしかすると、スズメバチではないかもしれない。

環境省の資料を調べていくと、九州にはすでに、国内のどこにもいなかったはずの外来種が入り込んでいることが分かった。しかも、その広がり方が思っていた以上に「近い」。

見た目がいつもと違うと感じたら、その勘は正しいかもしれない

環境省九州地方環境事務所の資料によれば、ツマアカスズメバチは全体的に黒っぽい体色をしていて、頭部は黒いが口の周辺だけ黄色い。腹部の先端はオレンジ色に染まり、脚は先端部分だけが黄色く、それ以外は黒に近い色をしている。大きさは働きバチで約2cm、女王バチで約3cmほど。オオスズメバチ(約3.5cm)よりひとまわり小さく、キイロスズメバチとほぼ同じくらいのサイズ感だ。

つまり「大きさで警戒レベルを判断する」といういつもの感覚が、この外来種には通用しない。小さいから安心、ではない。脚の先だけがぽつんと黄色い、という不自然な配色こそが、見分けるための一番の手がかりになる。

なぜ、この蜂が九州にいるのか

ツマアカスズメバチはもともと中国南部や台湾、東南アジアの一帯に生息する種で、国内では平成24年(2012年)10月、長崎県対馬市で初めて確認された。海を渡ってきた蜂、というと遠い話に聞こえるが、その後の広がり方を見ると、決して対馬だけの出来事では済んでいない。

平成27年(2015年)1月に特定外来生物に指定されたのとほぼ同じ時期、同年9月には福岡県北九州市で確認され、翌々年の平成28年(2016年)5月には宮崎県日南市、平成30年(2018年)10月には大分県大分市でも確認されている。対馬から本土へ、そこからさらに宮崎・大分という九州南部側にまで、10年もかからずに広がってきたということだ。対馬の話だと思って読み流していた人ほど、この地名の並びには少し背筋が伸びるはずだ。

対馬では、すでに「過去最多」の数字が出ている

本土側の確認はまだ個体や巣が点在するレベルだが、最初に定着した対馬では状況がもう一段階進んでいる。九州地方環境事務所の分布調査によれば、直近の調査では138地点中110地点でツマアカスズメバチの生息が確認され、これは過去最多の生息確認地点数だという。かつては生息情報が落ち着いていたはずの対馬北部でも、これまで捕獲例の少なかった対馬南部でも、確認地点が増えている。

気象条件によって年ごとに数字が変動する可能性はあり、これだけで一直線の増加傾向とは言い切れない、と資料自身も慎重な書き方をしている。それでも、対馬という「点」で起きていることが、これから本土側の「点」でも繰り返されないという保証はどこにもない。10年前に対馬だけの話だった生き物が、いまは宮崎・大分にいる。この事実そのものが、次に何が起きうるかを物語っている。

林業にとって本当に厄介なのは、巣が「見えない高さ」にあることだ

在来のスズメバチ対策として、巣を見つけたときの対応フローではまず巣を発見すること、周囲に注意喚起することが最初のステップになっている。だがツマアカスズメバチの巣は、その「見つける」という前提を崩してくる。

巣は地上10m以上の高所に作られることが多く、形はいびつで表面に凸凹が目立つという。地面の巣穴や軒下、低い茂みを警戒していれば済んでいたこれまでの感覚は、ここでは通用しない。枝打ちや高木の伐採で見上げる先、普段は「木の上の方」としか認識していなかった空間にこそ、巣がある可能性が出てくる。声を掛け合いながら見上げて確認する余裕がないまま、伐倒の振動やチェーンソーの音が巣を刺激してしまう場面は、想像に難くない。地上を歩きながら気づける在来種の巣と違って、頭上高くにある巣は、作業に集中しているときほど視界に入らない。

蜂だけの問題では終わらない

もうひとつ、この外来種が厄介なのは、人への被害だけにとどまらない点だ。ツマアカスズメバチはミツバチをよく捕食することが報告されていて、巣箱の前で待ち構え、飛翔しながら空中でミツバチを捕らえる行動が確認されている。近くで養蜂を営む人がいれば、これは山の作業者だけの問題ではなく、地域の農業や生態系そのものに関わってくる話になる。刺されるリスクだけでなく、山の生態系のバランスを静かに変えてしまう存在として、この蜂を見ておく必要がある。

見つけたら、駆除するより先にやることがある

在来のスズメバチであれば、自力での対応や駆除業者への依頼が選択肢になる。だがツマアカスズメバチは特定外来生物に指定されており、無許可での飼養・保管・運搬が原則禁止されている。学術研究や生業維持などの目的がない限り許可は下りず、違反すれば個人でも罰則の対象になりうる規制対象の生き物だ。見た目が「いつもと違う」と感じた蜂を見つけたら、自己判断で駆除や持ち帰りをするのではなく、まず管轄区域の環境省地方環境事務所に連絡することが最初の一手になる。

次に山で見上げた高い枝の先に、いびつな形の巣影を見つけたら、その場でスマートフォンを取り出してほしい。刺激を与えずにそっと写真を撮り、種類を見分け、必要なら連絡する。それだけで、次の一歩を間違えずに済む。

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出典: ツマアカスズメバチ(日本の外来種対策・環境省)ツマアカスズメバチの生息状況について(九州地方環境事務所・環境省)外来生物対策‐ツマアカスズメバチについて(九州地方環境事務所・環境省)何が禁止されているの?(日本の外来種対策・環境省)

この記事を書いた人

藤川翔(屋号:希翔)

本記事は筆者自身がツマアカスズメバチに遭遇した経験ではなく、環境省・九州地方環境事務所の公表資料に基づいて構成している。九州本土での確認例が近年の県境をまたいだ拡大を示している点に着目した。

この記事の裏話や、体験の背景はnote(山守ラボ)でも綴っています。