SFTSは犬・猫からも感染する。刺されていない自分が、なぜ発熱したのか

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。
2025年9月、東京都内の15歳の犬が嘔吐と下痢で動物病院を受診した。飼い主は屋内飼育で、8月下旬に都外へ滞在していたという。9月18日、飼い主が犬の体にマダニがついているのを見つけ、容体はさらに悪化。9月24日の検査でSFTSウイルスの陽性が確認され、9月27日、犬は死亡した。
犬が刺されて発症した、というだけの話ではない。この病気の怖さは、ここから先にある。SFTSは、感染した犬や猫の血液・唾液・便・尿に直接触れることでも、人にうつる可能性があるからだ。つまり、自分自身は一度もマダニに刺されていなくても、看病していた愛犬・愛猫を介して感染するケースが起こりうる。
マダニ対策の基本や全国的な患者数の増加では、自分がマダニに刺されないための対策を中心に解説してきた。だが「自分は長袖を着て、忌避剤も使っている」と対策を徹底している人ほど、見落としやすい経路がもう一つある。
健康なペットからは感染しない、という条件をまず押さえる
先に誤解を解いておきたい。厚生労働省のQ&Aは、この点をはっきり否定している。
発症していないネコやイヌ、屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例はこれまでに報告されていない。
つまり「うちの犬も山を歩くから心配だ」と、健康な愛犬を遠ざける必要はない。感染が起きているのは、あくまで発症した動物との接触からだ。ここを混同すると、無意味に犬猫を避けるようになるか、逆に「結局よくわからないから気にしない」と開き直るかのどちらかに転びやすい。リスクの輪郭を正しく知ることが、過剰反応も油断も防ぐ。
では、何が「発症動物との接触」にあたるのか
具体的には、次のような場面が該当する。
- 体調を崩した犬・猫の血液、唾液、嘔吐物、便、尿に素手で触れる
- 弱った猫に咬まれる(実際に、猫に咬まれたことが原因でSFTSに感染した事例が報告されている)
- 動物病院で、症状のある動物の体液に防護なしで接触する(獣医療関係者の感染事例も報告されている)
福岡県のまとめでは「ペットとの過剰な触れ合い(口移しで食べ物を与える、一緒の布団で寝るなど)は避け、ペットを触った後はしっかりと手洗いを行うこと」が予防策として挙げられている。普段は気にも留めない距離の近さが、相手が発症している局面では感染経路になる、ということだ。
猟犬・作業犬を連れて山に入る人は、対策がもう1段必要になる
ここが、他の一般的な飼い主向け注意喚起と、この記事を一人親方の林業従事者向けに書き直す理由だ。
普通の室内飼いのペットなら、マダニに触れる機会自体が少ない。だが猟犬や、現場に同行させている作業犬は違う。人間と同じ、あるいはそれ以上に山の中を歩き回り、マダニに刺される機会も多い。つまり「自分は装備を固めて対策している」つもりでも、一緒に山に入る犬の方が先にマダニをもらってくる可能性がある。
散歩や山行のあとに犬の体をチェックする習慣は、犬自身の健康のためだけではない。もし数日後にその犬が食欲を落とし、ぐったりし始めたら、それは「うちの子、大丈夫かな」で済む話ではなく、看病する自分自身の感染リスクの始まりでもある。
マダニがついているのを見つけたら、犬でも自分でも同じ
犬や猫の体にマダニがついているのを見つけても、自分で無理に引き抜いてはいけないのは、人間の場合と同じだ。無理に引っ張ると口器が皮膚に残ったり、体液がかえって逆流したりするリスクがある。速やかに動物病院を受診し、専門的に処置してもらう必要がある。
看病するなら、素手を避ける
もし犬や猫が発熱・嘔吐・下痢などSFTSを疑う症状で通院し、自宅で看病する必要が出た場合は、次を徹底したい。
- 排泄物の処理や口周りのケアは、使い捨て手袋を着けて行う
- 触れたあとは石けんでしっかり手を洗う
- 動物病院での指示に従い、体液への直接接触を避ける
- 自分自身にも発熱・消化器症状(食欲低下、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛)が出た場合は、速やかに医療機関を受診し、「発症した犬・猫の看病をしていた」ことを必ず医師に伝える
最後の一点は特に重要だ。SFTSの症状は初期には風邪や食あたりと区別がつきにくい。マダニに刺された記憶がなくても、看病していた事実さえ伝えれば、医師は正しく疑ってくれる。逆に伝えなければ、診断が遅れる可能性がある。
「刺されていないから大丈夫」ではなく、「発症した動物に素手で触れていないか」
冒頭の東京都の犬は、屋内飼育で普段はリスクの低い環境にいながら、たった一度の都外滞在でマダニをもらい、命を落とした。飼い主自身が感染したという報告ではないが、都は「人もペットも、マダニに刺されないことが重要」と、双方への注意を呼びかけている。
この記事で伝えたかったのは、「犬や猫を怖がれ」ということではない。健康な愛犬・愛猫との日常の触れ合いを控える必要はない。ただ、山に連れて行く犬がいるなら、その犬の体調の変化に、これまでより少しだけ敏感になってほしい。マダニ対策は、もう自分の肌だけの話ではなくなっている。
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出典: SFTSに関するQ&A(厚生労働省)、犬猫からの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染を予防しましょう(福岡県)、犬の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)発生に伴う注意喚起(東京都、2025年10月9日)、犬や猫から人への重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染(柏市)