単独作業

一人親方の単独作業リスク管理。倒れたとき、気づいてくれる人はいるか

一人親方の単独作業リスク管理。倒れたとき、気づいてくれる人はいるか

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。

山の中で倒れたとして、その日のうちに誰かが気づいてくれるだろうか。仲間と組んで作業している人なら、答えは「気づく」だろう。だが一人親方や自伐林家として単独で山に入っている人にとって、この問いはそれほど簡単には答えられない。

これまでこのブログで扱ってきた声掛けや救急セットの話は、実は「誰かがそばにいる」ことを前提にしていた。この記事では、その前提が成り立たない単独作業について、法制度の現状と、一人でも今日からできる対策を整理する。

これまでの対策は、実は「仲間がいる前提」だった

伐木作業の安全対策では「かかるぞ」の声掛けと応答確認について書いた。救急セットの記事では、止血や搬送の手順を紹介した。どちらも、その場に「声を掛ける相手」「手当てをしてくれる相手」がいることを前提にしている。

単独作業の場合、この前提そのものが崩れる。声を掛ける相手がいない。倒れても、圧迫止血をしてくれる手がない。装備や知識をどれだけ揃えても、それを実行する「もう一人」がいなければ機能しない場面が出てくる。悪天候時に作業を中止する判断のような、相談相手がいれば背中を押してもらえる場面も、一人ならすべて自分だけで決めることになる。

警察庁の統計でも、山岳遭難者の年齢層は50〜70代で全体の6割を超える。林業従事者の平均年齢とほぼ重なる層であり、しかも遭難原因の1位は「滑落」ではなく地味な「転倒」だった。派手な事故より先に、平地の感覚で歩いた一歩を誰も見ていない、という状況の方が積み重なりやすい。

法律も「一人親方」は長らく想定していなかった

厚生労働省によれば、労働安全衛生規則等の改正により、事業者に雇用される労働者だけでなく、請負作業を行う一人親方等に対しても、労働者と同等の保護が図られるよう、事業者に一定の措置が義務付けられるようになった。

これは裏を返せば、それまでは「一人親方は自分の身は自分で守るしかない」という制度上の空白があったということでもある。自伐型林業のように、事業者に雇われず単独で山に入って作業する場合、この改正の対象そのものに含まれないケースも多い。林野庁も、一人親方等が行う林業作業は労働者による作業ではないため、災害の発生状況や要因が十分に把握できていないことを課題として挙げている。つまり、一人親方の安全は、統計上も制度上も「見えにくい」領域だということだ。

緊急連絡体制は、実は「複数人の連鎖」でできている

林業・木材製造業労働災害防止協会が案内する緊急連絡体制は、作業者同士の呼び子やトランシーバーによる連絡、現場から拠点への連絡、拠点から事務所や消防への連絡という、複数人の連鎖でできている。作業者の所在が分からなくなったときは、定期的な応答確認と、異常があればすぐに捜索する体制を組むことが基本になる。

だがこの仕組みは、そもそも「確認する側の人」がいて初めて成立する。単独作業の場合、この連鎖の一番最初の一人がいない。応答確認をしてくれる相手が、現場にも、拠点にも存在しない状態で作業が進む。

単独作業を始める前に確認しておくことのフロー図
一人で山に入る前に、確認しておきたい3つのこと

「誰も気づかない時間」を短くする、具体的な工夫

連鎖の最初の一人を、現場の外につくることはできる。特別な装備がなくても、今日から始められる工夫がいくつかある。

その一言が、連鎖の最初の一人になる

冒頭の問いに戻る。山の中で倒れたとして、その日のうちに誰かが気づいてくれるか。仲間がいなくても、答えを「気づく」に変える方法はある。それは装備でも体力でもなく、山に入る前に誰かへ送る、たった一言の連絡だ。

次に一人で山に入るとき、その日の作業場所と終了予定時刻を、誰か一人に伝えてから入ってほしい。夏場であれば、熱中症対策が事業者には罰則付きで義務化された一方、一人親方にはその義務が届いていないという穴も合わせて知っておきたい。

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この記事を書いた人

藤川翔(屋号:希翔)

本記事は筆者の直接的な受傷経験ではなく、厚生労働省・林野庁・林業労働災害防止協会の公的資料に基づいて構成している。

この記事の裏話や、体験の背景はnote(山守ラボ)でも綴っています。