スズメバチに蜂スプレーは過信しない。下刈り中にアシナガバチの巣で使って分かった差

本記事は筆者の林業現場での実務経験および公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供を目的としています。症状の判断や治療の代わりとなるものではありません。実際の対応については医療機関・専門家にご相談ください。緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番通報してください。
下刈りの現場では、ハチ用の殺虫スプレーを1本、すぐ手が届くところに置いておくべきです。先日、現場で作業中にアシナガバチの巣が出てきて、携帯していたスプレーでその場を切り抜けられました。ただ、同じ感覚でスズメバチに噴射すると、かえって危険な場面になります。
現場での結論
- 携帯するのは「ハチ用」と書かれた殺虫スプレー(ピレスロイド系)です。いわゆる虫除けスプレーや虫除けクリームは、刺すハチにはまったく効きません(森林総合研究所のパンフレット)。
- アシナガバチや小型の巣なら、薬剤が直接かかればほぼその場で落ちます。今日も、噴射した先から蜂がぼとぼと落ちていきました。
- スズメバチは、同じスプレーでもノックダウンするまで数秒から十数秒かかります。その間、狙いを外した個体や巣から出てきた個体は刺しに来ます。薬剤を浴びて弱った個体も、しばらくは飛べます。
- 1匹に噴射すると、その蜂が出す警報フェロモン(仲間への攻撃の合図になるにおい)で、巣にいる蜂が一斉に出てきます。巣の近くでの噴射は逆効果です。
- だからスズメバチは「見つけたら噴射」ではなく、「動かずにやり過ごす → そのまま離れる」が基本です。スプレーを使うのは、すでに複数に刺されていて逃げ場がない、という最終手段のときだけです。
- どのハチであっても、スプレーだけで巣を駆除しようとしないでください(森林総合研究所)。巣ごと相手にするのは業者か市町村の仕事です。
なぜアシナガバチには効いて、スズメバチには過信できないのか
ピレスロイド系の殺虫成分は、蜂の神経系に作用して体の自由を奪います。薬剤に触れた蜂はノックダウンします(KINCHOの解説)。成分が効くという点では、アシナガバチもスズメバチも変わりません。差が出るのは、体の大きさと、巣にいる数と、攻撃性です。
森林総合研究所の資料によると、スズメバチの巣にいる働きバチは種類によっては1000匹近くになります。アシナガバチの巣はこれよりはるかに小さく、働きバチの数も一桁から二桁で収まることが多いです。数十匹の巣なら1本のスプレーで対応できても、数百匹が同時に出てくる巣には、噴射が追いつきません。
携帯用のスプレーは、缶が小さいぶん一度に撒ける量も、連続で噴射できる時間も限られます。まっすぐ届く距離もせいぜい3〜4mです。相手の数で押されると、単純に弾切れになります。今日のアシナガバチの巣はそこそこ大きめでしたが、それでも噴射で決着がつきました。この「決着がつく」感覚を、スズメバチに持ち込まないことが大事です。
スズメバチの巣を刺激すると何が起きるか
森林総合研究所の資料では、いちばん危険なのは巣があると知らずに踏んだり枝を揺らしたりしたときで、この場合は多数の働きバチがすぐに襲ってきます。追いかけてくる距離は、もっとも危険なオオスズメバチで80mほどとされています。つまり、その場で1〜2匹に噴射して勝てる相手ではなく、80m走って逃げ切る前提で動く相手だということです。
巣に近づいたときのスズメバチは、次のような威嚇のサインを出します。
- 相手の周りをしつこく飛ぶ
- 空中で狙いを定めて停止する
- あごをかみ合わせて「カチカチ」と音を立てる
これが出たら、できるだけ動かずに蜂が飛び去るのを待ちます。怖くて手で振り払いたくなりますが、すばやい動きは攻撃の引き金になります。スプレーを構えて腕を振り上げる動作も、同じ引き金になり得ます。
ハチ刺されによる死亡事故は全国で毎年数十件起きていて、そのほとんどがアナフィラキシーショックによるものです。刺されてから1時間以内に亡くなるケースが多く、直接の死因でもっとも多いのは、のどが腫れて気道がふさがる窒息です(森林総合研究所)。林業では、下草刈りの作業中に蜂に刺されて亡くなった事例も報告されています。現場で考えるべきは、スプレーで反撃して蜂の数を減らすことではなく、自分が刺される回数を1回でも減らして距離を取ることです。
「道で蜂が飛んでいたら、巣が近い」は資料でも裏が取れる
今日おどろいたのは、この現場ではここ最近、蜂が飛んでいるのをほとんど見ていなかったのに、藪の中に巣があったことです。逆に、これまでの経験では、作業道や林道で蜂が飛んでいるのを見た日は、高い確率でその周辺で巣に行き当たっています。
これは体感だけの話ではありません。森林総合研究所の資料にも、「あたりに飛びかうハチの数が急に多くなったり、一定の方向に飛ぶようになったら、そばに巣があるおそれがある」と書かれています。一定方向へまっすぐ飛ぶ個体は、巣に帰る途中であることが多いからです。
現場での使い方はこうです。移動中や作業前に蜂を1匹でも見たら、いったん刈払機のエンジンを止めて、周囲の飛び方を確認します。数が多い、または同じ方向へ飛ぶ個体がいるなら、その先に巣があると考えて進みます。下刈りは自分で藪を刈り開いていく作業なので、地際や低木の中の巣は、刈り込む直前まで見えません。エンジン音で蜂の羽音もかき消されます。止まって目で確かめるこの一手間が、巣に刃を入れる事故を防ぎます。
アレルギー体質なら、スプレーより先に確認すべきこと
過去に蜂に刺されて、刺された場所の痛みや腫れだけでなく、じんましん・発汗・吐き気・頭痛といった全身の症状が出たことがある人は、ハチ毒アレルギーの体質かもしれません。病院で検査を受けられます(森林総合研究所)。体質がわかっている人は、スプレーの携帯より先に、エピペン(アドレナリン自己注射器)の携行と、一緒に作業する人への共有を優先してください。
下刈りを2人以上で入る意味も、ここにあります。1人が刺されたら、もう1人が離脱の判断と救急要請の役に回れます。刺された直後の応急処置は別の記事にまとめましたが、アンモニアや尿を塗るのは効果がないうえ有害なので、絶対にやらないでください(森林総合研究所)。
明日からやること
- ハチ用スプレーを1本、腰袋か刈払機のそばなど、すぐ手が届く場所に固定する(現場でよく使われているのはアース製薬 ハチアブマグナムジェットなど)
- シーズンの入りに、試し噴射でガスの残量と噴射の勢いを確認しておく
- 移動中・作業前に蜂を1匹見たら、エンジンを止めて周囲の飛び方を確認する。一定方向へ飛ぶ個体がいたら特に警戒する
- アシナガバチの小さい巣に不意に近づき、逃げ場がないときだけ、風上から直接噴射する
- スズメバチには噴射しない。動かずやり過ごし、身をかがめて80m以上離れる
- 刺されて全身症状が出たら、スプレーのことは忘れて、すぐ救急要請する
巣そのものを見つけてしまったときに、作業を続けてよいか中止すべきかの判断は、スズメバチの巣を林業現場で見つけたときの対処フローにまとめています。今年は蜂を見かける回数が少ないと感じていますが、それでも巣はあります。その話はアシナガバチに刺された同僚の記録で書きました。服装の面から刺されにくくする工夫は防蜂服の選び方を参照してください。